【2026年1月施行】下請法改正で振込手数料の売手負担が全面禁止に。買手企業が法人口座を見直すべき理由
令和8年1月1日施行の取適法(旧下請法)により、振込手数料を受注側に負担させることが合意の有無にかかわらず禁止されました。買手企業が全額を負担する時代の法人口座選びを、公正取引委員会の一次資料をもとに解説します。
2026年1月1日から、振込手数料を受注先(中小受託事業者)に負担させることが、書面による合意があっても全面禁止になりました。 旧下請法では「事前の書面合意 + 実費の範囲内」であれば売手負担が認められていましたが、取適法(旧下請法)ではこの例外が撤廃されています。これまで「売手から振込手数料分を差し引いて支払う」運用をしていた買手企業は、全ての振込手数料を自社で負担する必要があります。
支払件数が多い企業ほど、このインパクトは大きくなります。年間1,000件の振込がある企業が、都市銀行(他行宛660円)からフィンサーバンク(90円)に乗り換えるだけで、年間57万円のコスト差が生じます。本記事では、公正取引委員会・中小企業庁の一次資料をもとに改正内容を整理した上で、買手負担時代の法人口座選びのポイントを解説します。
取適法(旧下請法)改正の概要
法律の名称と施行日
令和8年(2026年)1月1日から、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」は「取適法(トリテキ法)」に名称が変更されました。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する取引の適正化に関する法律」です。
従来の「下請」という用語が持つ上下関係の含意を改める趣旨で、用語も以下のように変更されています。
| 旧下請法 | 取適法(2026年1月〜) |
|---|---|
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
新たに追加された3つの禁止行為
公正取引委員会と中小企業庁が発行した「取適法リーフレットNo.01(令和7年10月)」では、施行日以降に発注した取引で新たに禁止される行為として以下の3つが明示されています(参考:https://www.jftc.go.jp/toriteki_pointleaflet2.pdf)
- 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
- 手形払等の禁止(支払遅延に該当)
- 振込手数料を負担させることの禁止(減額に該当)
本記事では、3つ目の「振込手数料」に焦点を絞って解説します。
振込手数料の売手負担が全面禁止になった理由
公取委リーフレットの該当箇所
公正取引委員会・中小企業庁「取適法リーフレットNo.01」(令和7年10月)には、以下のように明記されています。
中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、製造委託等代金から差し引くことは違反になります(「減額」に該当)。
ポイントは「合意の有無にかかわらず」という一文です。事前に書面で合意していても、振込手数料を受注側に負担させれば違反となります。
旧下請法との違い
従来の下請法でも、下請代金の減額は下請法第4条第1項第3号で禁止されていました。ただし運用基準では、以下の2つの要件を満たせば、振込手数料を下請事業者に負担させても違反にあたらないと解釈されていました。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 書面合意 | 事前に書面で合意していること |
| 実費の範囲内 | 実費を超える金額を差し引いていないこと |
実務では、基本契約書や覚書に「振込手数料は売主の負担とする」という条項を入れ、支払額から手数料相当額を差し引いて送金する運用が広く行われてきました。
取適法ではこの例外が撤廃されました。 どれほど丁寧に書面合意をしていても、振込手数料を中小受託事業者に負担させれば「減額」に該当し、違反となります。
新旧ルール対比表
| 観点 | 旧下請法(〜2025年12月31日発注分) | 取適法(2026年1月1日発注分〜) |
|---|---|---|
| 条文 | 下請法第4条第1項第3号(減額の禁止) | 取適法(減額に該当) |
| 書面合意があれば売手負担 OK か | ○(実費の範囲内であれば可) | × 合意があっても禁止 |
| 「減額」該当性 | 実費超過分のみ該当 | 合意有無・実費有無を問わず該当 |
| 買手が取るべき対応 | 書面条項で売手負担を設定する運用で足りた | 全額を買手が自社負担 |
買手企業(委託事業者)に生じる実務インパクト
すべての振込手数料が自社コストになる
改正の結果、委託事業者は振込の都度、手数料を自社の費用として計上する必要があります。これまで差し引いて相殺していた企業にとっては、実質的な支払いコストの増加です。
年間の振込件数別に、都市銀行とネット銀行の手数料差がどれほどの金額になるかを試算しました(他行宛振込、3万円以上、インターネットバンキング利用時の一般的な料金を参考)。
| 年間振込件数 | 都市銀行(660円/件) | フィンサーバンク(90円/件) | 年間差額 |
|---|---|---|---|
| 100件 | 66,000円 | 9,000円 | 57,000円 |
| 500件 | 330,000円 | 45,000円 | 285,000円 |
| 1,000件 | 660,000円 | 90,000円 | 570,000円 |
| 3,000件 | 1,980,000円 | 270,000円 | 1,710,000円 |
年間1,000件の振込がある中堅企業であれば、法人口座をネット銀行に切り替えるだけで、年間57万円のコスト差が生じます。これまでは「売手が負担していたのだから、うちの手数料が高くても関係ない」と考えられていた部分が、改正後は直接的に営業外費用として損益計算書に乗ってきます。
買手企業が直ちに確認すべき3つの実務対応
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基本契約書・発注書の振込手数料条項を見直す 「振込手数料は売主負担とする」「〇〇円を差し引いて支払う」等の条項が残っていないか確認し、2026年1月1日以降の発注分については削除または修正します。
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経理システムの差引設定を変更する 会計ソフトや ERP で「振込時に手数料相当額を自動で差し引く」設定になっている場合、設定を変更します。仕訳テンプレートの支払サイドも併せて確認してください。
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法人口座の手数料水準を見直す 今まで気にしていなかった手数料が、そのまま自社のコストになります。年間の振込件数 × 手数料 で試算し、ネット銀行への乗り換え・サブ口座化の経済合理性を判断します。
買手負担時代の法人口座の選び方
振込手数料を全額自社で負担する前提で法人口座を選ぶときに、見るべきポイントは3つです。
ポイント1:他行宛振込手数料の絶対額
最も重要なのは、1件あたりの他行宛振込手数料です。同じ「ネット銀行」でも、料金体系には差があります。2026年4月時点の主要ネット銀行の他行宛振込手数料(3万円以上)は以下の通りです。
| 銀行 | 他行宛振込手数料(3万円以上) |
|---|---|
| フィンサーバンク | 90円 |
| GMOあおぞらネット銀行 | 143円 |
| 住信SBIネット銀行 | 145円 |
| PayPay銀行 | 145円 |
| 都市銀行(インターネットバンキング) | 330円〜660円 |
1件あたり数十円の差でも、年間振込件数が100件を超えると無視できない金額になります。
ポイント2:月額料金と振込回数の上限
振込件数が月100件を超える企業では、月額無料かつ振込回数に上限がない銀行を選ぶと試算が単純になります。「月10件まで無料、以降は手数料発生」のような段階型料金の銀行は、件数超過後の単価を必ず確認してください。
ポイント3:会計ソフト連携と仕訳自動化
振込件数が増えるほど、仕訳入力の工数も膨らみます。マネーフォワードクラウドやfreee等と API 連携している法人口座を選ぶと、振込データが会計ソフトに自動同期され、仕訳作成の手間を削減できます。法人向けネット銀行の比較軸としてしばしば見落とされがちですが、経理部の工数削減効果は振込手数料の削減効果と同等かそれ以上になるケースもあります。
参考資料
- 公正取引委員会・中小企業庁「取適法リーフレットNo.01 トリテキ法の確認ポイント − 代金編 −」令和7年10月
- 下請代金支払遅延等防止法 第4条第1項第3号(下請代金の減額の禁止)
- 公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(旧下請法下での書面合意+実費範囲内の例外解釈の根拠)
- 取適法正式名称「製造委託等に係る中小受託事業者に対する取引の適正化に関する法律」
まとめ
取適法(旧下請法)の施行により、2026年1月1日以降に発注した取引では、振込手数料を中小受託事業者に負担させることが、合意の有無にかかわらず禁止されました。買手企業(委託事業者)は、これまで実質的に売手が負担していた振込手数料を、全額自社で負担する必要があります。
年間の振込件数が多い企業ほど、法人口座の手数料水準が直接利益を圧迫します。このタイミングで、法人口座を振込コストの観点から見直すことをお勧めします。
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よくある質問
Q. 2026年1月1日より前に発注した取引についても、売手負担は禁止になりますか? A. 公正取引委員会のリーフレットには「取適法施行(令和8年1月1日)に伴い、同日以降に発注した取適法適用対象取引では、新たに以下の行為が禁止されます」と明記されています。したがって、2025年12月31日以前に発注した取引には旧下請法の運用基準が引き続き適用され、2026年1月1日以降の発注分から新ルールの対象となります。
Q. 書面で「振込手数料は売主負担とする」と合意していれば引き続き認められますか? A. いいえ。取適法リーフレットでは「中小受託事業者との合意の有無にかかわらず」違反になると明記されています。旧下請法の運用基準では書面合意+実費範囲内であれば認められていましたが、取適法では合意の有無を問わず禁止されます。
Q. 振込手数料以外に、今回の改正で買手企業が気をつけるべきポイントはありますか? A. 取適法リーフレットでは、振込手数料の他に「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」と「手形払等の禁止」の2つが新たな禁止行為として追加されています。手形払等の禁止は、電子記録債権やファクタリングを使用する場合でも、支払期日(最長で発注した物品等を受領した日から起算して60日以内)までに代金満額相当の現金を得ることが困難なものは支払遅延に該当するとされており、発注・支払プロセス全体を見直す必要があります。
Q. 違反した場合はどのようなペナルティがありますか? A. 公正取引委員会による調査・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名の公表に至ることがあります。取引先との関係悪化や取引停止といった商慣行面の影響も大きいため、社内ルールの早期見直しをお勧めします。
Q. フィンサーバンクは、取適法対応のために新しくサブ口座として開設しても問題ありませんか? A. 問題ありません。既存のメインバンクはそのまま維持し、振込専用のサブ口座としてフィンサーバンクを活用いただくことで、取適法対応に伴う振込手数料の増加を最小化できます。既存口座の解約は不要で、すぐに運用を開始いただけます。

著者
田口 周平
株式会社f9k 取締役COO
東京大学法学部を卒業後、2015年に経済産業省に入省。原子力政策や情報政策、省内全体の政策・法令統括や災害対応などを担当した後、2020年4月からはコロナ禍では中小企業向けの金融支援策を担当。約56兆円超の貸出実績となっている実質無利子・無担保融資の制度設計のほか、信用保証制度の運用を担当する。2021年末に経済産業省を退官し、その後株式会社Finswer・f9kの取締役COOに。