【元・公庫職員が作成】スタートアップにおけるデットファイナンス3選。デットファイナンスのメリット、デメリット!
スタートアップ向けデットファイナンスの基礎からメリット・デメリット、日本政策金融公庫・銀行融資・ベンチャーデットの3つの方法を元公庫職員が解説します。
スタートアップの成長において、資金調達は不可欠な要素です。
一般的なスモールビジネスとは異なり、スタートアップの成長曲線は「Jカーブ」を描くと言われています。これは、事業開始直後は赤字でも、短期間で急成長して黒字化し、投資した資金を回収する時間に対する利益の変化を示すものです。そのため、大きな売上が立つ前から、仮説検証、人材確保、広告宣伝などに多額の資金が必要となり、自己資金だけでは賄いきれない大規模な資金調達が求められます。
これまで、スタートアップの資金調達はベンチャーキャピタルからのエクイティファイナンスが一般的な選択肢とされてきました。しかし、2022年後半以降、米国でのベンチャーキャピタル投資額が減少するなど、資金調達環境は厳しさを増しています。このような変化の中で、株式の希薄化を避けつつ資金を調達できるデットファイナンスが、スタートアップにとって注目すべき選択肢となっています。
本記事では、スタートアップ経営者の皆様に向けて、「デットファイナンスとは何か」という基礎から、そのメリット・デメリット、そして具体的なデットファイナンスの方法を3つご紹介します。
そもそも「資金調達」とは?
「資金調達」とは、事業を継続したり、あるいは大きく成長させたりする上で必要となるまとまったお金を、社外からどのように集めるかという行為を指します。起業したばかりの頃は、自己資金で何とかしようと考えがちですが、設備投資や広告宣伝費など、予想外の出費が重なるとすぐに貯蓄が尽きてしまうことがあります。
「もっと大胆なチャレンジをしたいのに、手元資金が足りない……」という経験は、経営を始めると誰もが一度は味わうものです。人材を雇用したり、店舗を増やしたり、新規事業を始めたりする際には、自己資金だけでは限界が訪れます。そうした時に、銀行などの金融機関や投資家、あるいは資産の売却などを通じてお金を調達する「資金調達」が必要になるのです。
資金調達が必要となるケースは多岐にわたりますが、代表的なのは新規事業の立ち上げ、既存事業の拡大、機械やシステムなどの設備投資を行う時です。また、取引先への支払いが先行し、売上入金が後になる「資金繰りギャップ」によって、黒字経営でも手元資金が回らなくなる「キャッシュフロー」の課題を抱える場合にも、追加の資金調達が必要となります。
資金調達の目的は「会社を成長させるため」であることがほとんどですが、そのタイミングは会社の規模や状況、ビジョンによって様々です。大切なのは、早めに「これから資金が足りなくなるかもしれない」と察知し、どの方法が自社に合うか検討し始めることです。
「デットファイナンス」とは?エクイティファイナンスとの違い
デットファイナンスは、金融機関からの借り入れや社債の発行など、いわゆる「負債」を増やすことで資金を得る方法を指します。最もイメージしやすいのは銀行融資でしょう。新店舗を出したいけれど手元資金が足りない時に、銀行や信用金庫に融資の相談をするケースが一般的です。
一方、エクイティファイナンスは、新株を発行して投資家やベンチャーキャピタル(以下、VCという)に引き受けてもらい、返済不要の資金を得る方法です。スタートアップ企業がVCと提携して急成長したり、上場を目指したりする話は、近年よく耳にするようになりました。
これら二つの主要な資金調達方法は、その性質が大きく異なります。
| 比較項目 | デットファイナンス | エクイティファイナンス |
|---|---|---|
| B/S上の計上 | 負債の部 | 純資産の部 |
| 返済義務 | 有 | 無 |
| 資金の出し手の立場 | 債権者 | 株主 |
| 資金の出し手の期待リターン | 利息 | キャピタルゲイン |
| 経営権への関与 | 関与されない | 関与される可能性あり |
デットファイナンスでは、借りたお金を将来返す義務があるため、毎月の返済や利息負担が発生します。しかし、返済が完了すれば資金提供者との関係は解消されます。デットファイナンスの利息は損金(経費)として扱えるため、税効果も期待できます。
対してエクイティファイナンスは返済義務がない代わりに、出資した投資家に会社の所有権の一部である株式を渡すことになります。これにより、経営に関する決定権の一部を譲る可能性が生じます。株主は会社が成長することで株価(企業価値)が上昇し、売却益を得ることを期待します。
このように性質が大きく異なるため、スタートアップは自社の状況や成長フェーズに合わせて、適切な資金調達方法を選択することが重要です。
スタートアップがデットファイナンスを利用する目的とメリット
スタートアップは一般的に、エクイティファイナンスを活用して短期間で一気に成長することが多いですが、デットファイナンスの利用が効果的な場合も多くあります。
デットファイナンスの主な目的
- 株式の希薄化を防ぐ: 資金調達ラウンドが進むにつれて、既存株主の持ち株比率の希薄化を防ぎたいタイミングで、デットファイナンスは有効な手段となります。
- レバレッジ効果の追求: 他人資本である負債と自己資本を組み合わせることで、自己資本のみの場合よりも高い利益率を上げることが期待できる「レバレッジ効果」を狙うことができます。少ない自己資金で大きな事業投資を行い、より多くのリターンを目指すことが可能です。
- 戦略的な経営の柔軟性: 厳しい市況下でも、デットファイナンスを活用することで、次回のエクイティファイナンスを有利に進めたり、選択肢を増やしたりと、経営の戦略的な柔軟性を高めることができます。
デットファイナンスを利用するメリット
- 経営の自由度が高い: エクイティファイナンスと異なり、株式を渡す必要がないため、経営権に影響を及ぼさず、比較的自由な経営判断が可能です。貸し手と借り手の関係に留まるため、返済さえ行えば経営に口出しされる心配がありません。
- 金融機関からの信用力向上: 期日を守ってきちんと返済を続けることで、金融機関からの信用力が向上します。これは将来の資金調達において、より良い条件での融資につながる可能性があります。
- 税効果が期待できる: 借入金の返済に伴う支払利息は「損金」として扱われるため、結果として税引後の企業価値が高まることがあります。
デットファイナンスのデメリット
デットファイナンスはスタートアップにとって多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
- 返済義務がある: デットファイナンスの最大の特徴は、元本と利息を期限までに返済する義務があることです。計画的に資金を使用し、現実的な返済計画を立てなければ、債務不履行に陥り、会社の信用に大きな傷がつく可能性があります。
- 自己資本比率が下がる: デットファイナンスで得た資金は「他人資本」として貸借対照表の負債の部に計上されます。これにより、総資本に占める自己資本の比率が下がり、企業の財務健全性や信用性が低下する可能性も考えられます。ただし、「資本性ローン」のように、金融機関の資産査定上は自己資本とみなされるデットファイナンスも存在します。
- 借り入れできない場合がある: スタートアップの状況、特に創業初期のフェーズでは、まだ実績が少ないために金融機関の審査で不利になり、希望する金額を借り入れできない場合があります。また、金融業など一部の業種では、そもそも融資を受けられないケースもあります。
スタートアップにおすすめのデットファイナンス3選
スタートアップの成長フェーズによって、利用できるデットファイナンスの手段は異なります。ここでは、スタートアップにおすすめの3つの方法をご紹介します。
1. 日本政策金融公庫からの借入
日本政策金融公庫は、政府が100%出資する政策金融機関であり、一般の金融機関が行う金融を補完することを目的としています。創業期や中小企業向けの融資制度を数多く設けており、比較的低い金利で借りられることが多いのが特徴です。
- 新創業融資制度: 新たに事業を始める事業者や、税務申告を2期終えていない(創業から2年以内)事業者を対象とした、無担保・無保証人、経営者保証なしの融資制度です。実績を問わない代わりに、創業者の事業領域への経験が重視されます。申し込みから着金まで約1ヶ月と比較的短期間ですが、審査では早期に黒字化する事業計画が評価されやすい傾向にあるとされています。
- 資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付): 元本の返済が満期一括となる融資で、利息は毎月発生しますが、業績連動型の金利設計で、赤字の間は低金利が適用されるため金利負担を大幅に抑えられます。金融機関の資産査定上は負債ではなく自己資本とみなされる点が大きなメリットで、他の金融機関からの呼び水効果となる可能性があります。
2. 銀行融資(市中銀行による一般的な融資)
民間の金融機関からの融資は、企業の状況に応じて融資額が異なりますが、スタートアップの場合、特に「信用保証付き融資」がおすすめです。
- 信用保証付き融資: 信用保証協会が保証人となることで、万一企業が返済不能となった場合に協会が立て替える仕組みです。これにより、金融機関のリスクが軽減され、スタートアップでも融資を受けやすくなります。自治体と連携する「制度融資」もこの一種です。ただし、所定の信用保証料の支払いが必要であり、経営者保証が付されることが多いため、代位弁済が発生した場合には経営者個人への請求リスクがある点には注意が必要です。
- プロパー融資: 信用保証協会等の保証を受けない、金融機関からの直接融資です。一般的には3期分の決算書が必要とされ審査のハードルもやや高いとされていますが、保証付融資よりも金利が低い傾向にあります。スタートアップが将来的にプロパー融資を受けるためには、シード期から銀行との関係性を築いておくことが有効です。
3. ベンチャーデット
ベンチャーデットは、デットファイナンスとエクイティファイナンスの両方の特徴を併せ持つハイブリッド型の資金調達方法です。日本ではここ数年で注目され始めています。
一般的には、金融機関から無担保や低利子で融資を受ける代わりに、新株予約権(事前に決められた条件で新株を受け取れる権利)を発行する手法が多く取られています。これにより、新株を直接発行するよりも持株比率の希薄化を抑えつつ、スタートアップは融資を受けやすくなるメリットがあります。
ベンチャーデットを提供するプレイヤーとしては、新株予約権付き融資を行う日本政策金融公庫やあおぞら企業投資、静岡銀行、東京スター銀行、横浜銀行などがあります。また、新株予約権をつけないスタートアップ向けデットファイナンスとして、北國銀行、Fibbo、Siiibo証券などが挙げられます。りそな銀行、みずほFGなどもベンチャーデットに関する取り組みを始めています。
ベンチャーデットは、成長段階のスタートアップが大きめの資金を狙う際に適しており、VCとの併用も可能です。急拡大時の資金調達ニーズを強力にバックアップしますが、専門家のサポートが必要になる場合もあります。金利が通常のデットファイナンスと比較して高めになる傾向がある点には注意が必要です。
スタートアップがデットファイナンスを利用する際の注意点
デットファイナンスはスタートアップの成長を加速させる強力な手段ですが、利用する際にはいくつかの注意点があります。
- 現実的な返済計画の策定: デットファイナンスには返済義務が伴うため、無理のない返済スケジュールを組み、事業のキャッシュフローをしっかりと見極めることが最も重要です。将来的な収益見込みを過大評価せず、堅実な計画を立てるようにしましょう。
- 長期的な資本政策の立案: 一時的な資金不足を補うだけでなく、デットファイナンスをスタートアップ全体の長期的な資本政策の中でどのように位置づけるかを検討することが大切です。エクイティファイナンスとのバランスを考慮し、最適な資金調達ミックスを目指しましょう。
- 金融機関との信頼関係構築: 審査においては、事業内容や計画だけでなく、経営者の人柄や誠実な対応も重視されます。金融機関と良好な関係を築くことで、より良い条件での融資が可能となり、今後の資金調達にもプラスに作用します。
まとめ
スタートアップにとって、デットファイナンスは株式の希薄化を防ぎ、レバレッジ効果を通じて事業成長を加速させる重要な資金調達手段です。日本政策金融公庫、銀行融資、ベンチャーデットなど、様々な方法が存在し、スタートアップの成長フェーズやニーズに合わせて最適な選択をすることが求められます。
日本政策金融公庫や民間金融機関も、スタートアップ向け専門部署を設けるなどして、スタートアップ支援に力を入れています。相談するハードルも下がっているので、直接相談してみるのも良いでしょう。また、必要に応じて、スタートアップ支援の専門家(外部機関)に相談してみるのも良いかもしれません。
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著者
相馬 研二
株式会社Finswer 取締役CSO
東京都立大学を卒業後、2007年に日本政策金融公庫に入庫。本店営業部や青森支店で法人向け融資業務に従事。その後人事、役員秘書、営業推進等の業務を経験した後、2019年から経済産業省に出向。経済産業省では、スタートアップ向け融資制度や、コロナ禍におけるゼロゼロ融資、資本性劣後ローン等の制度設計や予算要求を担当。2024年7月より株式会社Finswer/f9kのセールス本部長。