SaaS/ECのLTVを劇的に引き上げる「組込型金融(BaaS)」とは?自社ブランド銀行を持つメリットと収益化の裏側
自社サービス内に法人口座を組み込む組込型金融の仕組みと、解約率・収益への効果を解説。銀行免許なしで自社ブランドの銀行を立ち上げるBaaSの実例も紹介します。
「機能を追加しても、競合との差がつきにくくなってきた」「プラットフォーム上で受発注は完結するのに、支払いだけは別の銀行アプリに移動してもらっている」——
SaaSやBtoBプラットフォーム、ECモールを運営する企業にとって、解約率とLTV(顧客生涯価値)は最重要のテーマです。そして機能競争が頭打ちになったとき、次の一手として選ばれているのが組込型金融(Embedded Finance) です。
本記事では、非金融の事業者が自社ブランドの法人口座を持つことで何が変わるのかを整理し、銀行免許を取得せずにそれを実現する仕組みと実例を解説します。
運営主体の開示:本記事のメディアは、法人向け銀行サービス「フィンサーバンク」を提供する株式会社f9k・株式会社Finswerが運営しています。記事の後半では自社サービスにも言及しています。
この記事の要約
組込型金融とは、SaaSやECなどの非金融企業が、自社サービス内に決済や銀行口座といった金融機能を組み込む仕組みです。プラットフォーム内に自社ブランドの法人口座を提供すると、ユーザーにとって「サービスの乗り換え=決済基盤の乗り換え」になるため、スイッチングコストが大きく上がります。従来、これを実現するには銀行免許の取得、勘定系システムの開発、eKYC・AMLといったコンプライアンス体制の構築が必要でした。ホワイトラベル型のBaaSを使えば、許認可を含む運用主体を提供事業者側が担うため、自社で金融部門を持たずに自社ブランドの銀行サービスを立ち上げられます。 株式会社Finswerは2026年8月19日にホワイトラベル事業を開始し、第1号として株式会社ラクーンコマースの「COREC BANK」が提供を開始しています。
| この記事のハイライト | 内容 |
|---|---|
| 課題 | プラットフォーム上の業務と、実際の資金移動が分断されている |
| 効果 | 決済基盤が自社サービスと一体化し、スイッチングコストが上がる |
| 障壁 | 銀行免許、勘定系システム、eKYC・AMLの運用体制 |
| 解決 | ホワイトラベル型BaaS。許認可を含む運用主体は提供事業者が担う |
| 実例 | 88,000社以上が導入するCORECの「COREC BANK」 |
組込型金融(Embedded Finance)とは、金融事業者ではない企業が、自社の商品やサービスの中に金融機能を組み込んで提供することを指します。BaaS(Banking as a Service) はそれを支える提供形態で、銀行機能をAPIなどを通じて外部の事業者に開放する仕組みです。BaaSがなぜ低コストな金融サービスを可能にするのかという仕組みそのものは、BaaSがもたらす金融の民主化で解説しています。
SaaS・プラットフォーマーが直面する「LTVの壁」と決済の分断
ユーザー基盤がある程度育ったプラットフォームが必ず突き当たるのが、機能のコモディティ化です。主要な機能は競合も実装し、比較軸が価格に収れんしていきます。
プラットフォーム上の業務と、資金の動きが切れている
BtoBの受発注やSaaSでは、もうひとつ構造的な問題があります。プラットフォーム上での業務(発注・請求・承認)と、実際のお金の動き(銀行振込)が分断されていることです。
ユーザーの実務はこうなっています。
- プラットフォーム上で発注・検収を行い、請求データが確定する
- 別の銀行アプリを立ち上げる
- 請求書の金額と振込先を手で入力する
- 振込を実行する
- プラットフォームに戻り、支払済みの状態を更新する
2〜4の工程は、プラットフォームの外側で起きています。ここで入力ミスが起きても、振込先の名義が違って組戻しになっても、プラットフォームは関与できません。業務の中で最も緊張する工程が、自社サービスの外にあるという状態です。
分断が続く限り、提供価値は頭打ちになる
この摩擦を放置したままでは、できることは「請求データをCSVで出力できます」「全銀フォーマットに対応しました」といった周辺の改善に留まります。ユーザーの手間は減りますが、資金の流れそのものは他社のインフラの上を通ったままです。
結果として、決済データは銀行側に蓄積されます。プラットフォームが持っているのは「いくら請求したか」までで、「実際にいつ入金されたか」は分かりません。
組込型金融がもたらす3つの事業インパクト
この分断を解消するのが、自社サービスの中に自社ブランドの法人口座を直接組み込むという発想です。単なる利便性の向上に留まらない変化が生まれます。
インパクト1:決済基盤との一体化によるロックイン
企業にとって、メインで使っている銀行口座を変更するのは重い意思決定です。振込先マスタの移行、会計ソフトとの連携設定、社内の承認フローの作り直しが発生します。
SaaSと法人口座が一体化していれば、サービスの乗り換えは決済基盤の乗り換えを意味します。機能面の比較で競合が並んだとしても、移行コストの差が残ります。これは機能追加では作れない性質の参入障壁です。
インパクト2:決済トランザクションが自社の導線に入る
ユーザーが自社ブランドの口座から振込を行うということは、これまで外部の銀行に流れていたトランザクションが、自社サービスの導線内で発生するということです。
ここから先の収益設計——たとえば金融トランザクションに伴う収益をどう分配するか——は、パートナーごとの個別協議になります。一律の条件があるわけではないため、事業規模や想定される取引量をもとに、提携時に設計する部分です。
インパクト3:将来的な展開の余地
口座という基盤を持つと、その上に乗せられる選択肢が広がります。以下はいずれも現時点で提供している機能ではなく、今後の検討対象となりうる例です。
- 自社ブランドの法人カードを発行し、経費決済を自社サービス内に取り込む
- プラットフォームの取引実績を使った与信・資金提供の仕組みを検討する
重要なのは、これらが「口座がある」という前提の上でしか検討できない、という点です。順番として、まず決済基盤を自社ブランドで持つことが起点になります。
自社で銀行機能を作る場合に立ちはだかる3つの壁
「自社ブランドの銀行を持つ意味は分かった。しかし現実的なのか」——ここが検討の分かれ目になります。ゼロから立ち上げる場合、壁は3つあります。
| 壁 | 内容 |
|---|---|
| 免許とシステム | 銀行免許の取得と勘定系システムの構築。投資規模と期間がいずれも大きい |
| コンプライアンス運用 | 口座開設時の本人確認(eKYC)、マネー・ローンダリング対策(AML)、反社会的勢力チェック |
| 継続的な運用体制 | 上記を平常時も有事も回し続ける組織。金融事業では止められない |
見落とされやすいのは2つ目と3つ目
システム開発の話は見積もりが出るため、経営判断の俎上に載りやすい領域です。一方で見落とされやすいのが、コンプライアンス運用は一度作って終わりではないという点です。
口座開設のたびに本人確認が発生し、取引のモニタリングは日々続きます。規制やガイドラインが変われば運用も変わります。IT企業が自社で金融コンプライアンス部門を組成するのは、採用の面でもノウハウの面でも現実的とは言えません。
「送客するだけ」の提携では解決しない
既存の銀行へユーザーを送客する形の提携であれば、これらの壁は回避できます。ただし、その場合は口座の名義も画面も相手方のもので、決済データも相手方に蓄積されます。自社ブランドとしての価値は生まれず、前章のインパクトも得られません。
壁を回避することと、価値を得ることは別の問題です。
事例:ラクーンコマース「COREC BANK」——88,000社の受発注基盤に銀行機能を組み込む
株式会社Finswerは2026年8月19日、子会社である株式会社f9kが提供する法人向けオンラインバンク「Finswer Bank」を基盤に、事業会社が自社ブランドのオンラインバンクを提供できるホワイトラベル事業を開始しました。
第1号の事例が、BtoB受発注システム「COREC」を展開する株式会社ラクーンコマースのCOREC BANK(コレックバンク)です。CORECは累計88,000社以上(2026年8月時点)に導入されている受発注プラットフォームです。
この仕組みで何が起きるか
ポイントは、プレスリリースにあるとおり許認可を含めたサービスの運用主体をf9kが担うことです。パートナー企業は銀行免許を取得することなく、自社のサービス名を冠したオンライン法人口座をユーザーに提供できます。
| 役割 | 担う主体 |
|---|---|
| ブランド・ユーザーとの関係 | パートナー企業(例:ラクーンコマース) |
| 許認可・サービス運用主体 | 株式会社f9k |
| 銀行機能の提供 | 北國銀行 |
CORECのユーザーは、受発注のデータ連携から実際の資金決済までを、単一のプラットフォーム内で完結できるようになります。前述した「別の銀行アプリを立ち上げて手入力する」という工程が、プラットフォームの内側に取り込まれる形です。
提供される口座の基本スペック
ホワイトラベルで提供される口座は、Finswer Bankの機能を基盤としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 他行宛振込手数料 | 1件90円〜 |
| 給与振込手数料 | 1件21円〜 |
| 同行宛振込手数料 | 1件13円 |
| 月額料金 | 0円〜の三段階プラン |
| 主な機能 | AI請求書読み取り、経費精算、会計ソフト連携 |
| 導入期間 | 最短2ヶ月 |
振込手数料をこの水準で提供できる背景については、振込手数料90円〜はなぜ実現できるのかで解説しています。
プラットフォームデータ×決済データが生み出す「次世代の与信」
組込型金融の先にある可能性として語られることが多いのが、データの融合です。ここは構想の話として整理します。
SaaS企業が持っているのは商流データです。いつ、誰に、いくら売れたか。取引の継続期間はどれくらいか。一方、銀行機能がもたらすのは決済データ——実際に資金がいつ動いたか、口座の残高がどう推移しているかという情報です。
この2つが揃うと、「請求は立っているが入金されていない取引」や「取引量は伸びているが資金の回転が悪化している事業者」といった状態が、外部からは見えない解像度で把握できるようになります。
信用金庫と日本政策金融公庫で法人融資を担当していたころ、審査で最も苦労したのが、決算書という年1回・数ヶ月遅れの情報から現在の状態を推定することでした。商流と決済がリアルタイムで揃っているという状況は、従来の融資審査から見ると前提が異なります。
ただし、これを実際の与信や資金提供につなげるには、別途の検討と体制が必要です。現時点で提供している機能ではなく、口座という基盤を持った先に検討しうる方向性として捉えてください。
顧客基盤を「金融機能を持つプラットフォーム」へ進化させる第一歩
組込型金融が有効に働くのは、次のような条件を満たす事業者です。
- すでに一定数のBtoB法人顧客を抱えている
- プラットフォーム上で受発注・請求・決済に関わるトランザクションが発生している
- 機能面での差別化が難しくなってきている
- ユーザーが自社サービスの外で振込作業を行っている
Finswerのホワイトラベルでは、自社ブランドでの銀行サービス提供に加えて、振込申請や照会機能をAPIとして自社サービスに組み込む形も用意されています。どこまでを自社の画面に取り込み、どこから先を任せるかは、プロダクトの設計次第で選べます。
「自社のプラットフォームに銀行機能を組み込めるのか」「どれくらいの期間とコストで立ち上がるのか」「収益の設計はどうなるのか」といった具体的な検討は、事業の規模や既存のシステム構成によって変わります。まずは現状のトランザクション量と、ユーザーがどこで自社サービスの外に出ているかを整理したうえでご相談ください。
参考資料
まとめ
組込型金融の本質は、決済という業務を自社サービスの内側に取り込むことです。
- プラットフォーム上の業務と資金の動きが分断されている限り、提供価値は頭打ちになる
- 自社ブランドの口座を持つと、サービスの乗り換えが決済基盤の乗り換えになる
- 自社で作る場合の壁は、免許とシステムだけでなく、eKYC・AMLの継続的な運用体制
- 送客型の提携では壁は避けられるが、ブランドもデータも自社には残らない
- ホワイトラベル型のBaaSであれば、許認可を含む運用主体を提供事業者が担う
機能で差をつける競争には終わりがありませんが、決済基盤を自社に取り込む選択は一度きりの構造変化です。 まずは自社のユーザーが、どの工程でサービスの外に出ているかを確認してみてください。そこが組み込むべき機能の候補になります。
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よくある質問
Q. 自社で銀行免許を取得する必要はありますか?
A. 必要ありません。ホワイトラベル型のBaaSでは、許認可を含めたサービスの運用主体を株式会社f9kが担います。パートナー企業は自社ブランドで口座をユーザーに提供する形になります。
Q. eKYCやAMLといったコンプライアンス業務は誰が行いますか?
A. 運用主体であるf9k側が担います。口座開設時の本人確認や取引のモニタリングを自社で組成する必要がないため、パートナー企業は金融コンプライアンス部門を持たずに提供を開始できます。
Q. 導入までにどれくらいの期間がかかりますか?
A. 最短2ヶ月での導入が可能です。ただし、自社サービスとの連携範囲や、どこまでを自社の画面に取り込むかによって変わります。具体的な期間は、既存のシステム構成を確認したうえでのご相談になります。
Q. 既存の決済代行サービスとは何が違いますか?
A. 決済代行は「支払いを受け取る手段」を提供するもので、口座そのものは提供されません。組込型金融では、ユーザーが自社ブランドの法人口座を保有し、そこから振込や入出金を行います。ユーザーにとっての「メインの決済基盤」になるかどうかが違いです。
Q. 収益はどのような形で生まれますか?
A. 収益の設計はパートナーごとの個別協議になります。事業規模や想定される取引量によって条件が変わるため、一律の枠組みはありません。具体的な内容はお問い合わせください。
Q. 法人カードの発行やユーザーへの融資も可能ですか?
A. 現時点で提供している機能ではありません。口座という基盤を持つことで将来的に検討しうる方向性として挙げているもので、提供時期や条件が決まっているわけではありません。まずは自社ブランドの法人口座の提供が起点となります。
Q. どのような事業者に向いていますか?
A. すでに一定数のBtoB法人顧客を抱え、プラットフォーム上で受発注や請求のトランザクションが発生している事業者です。ユーザーが振込のために自社サービスの外に出ている状態であれば、組み込む余地があります。

著者
金和 昇汰
株式会社f9k セールス
近畿大学経営学部を卒業後、2015年に大阪シティ信用金庫に入庫。リテール営業及び融資業務に従事。2022年に日本政策金融公庫へ入社し、スタートアップ・中堅中小企業向け法人融資業務に従事。2025年より株式会社Finswer・f9kに参画。